2人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
ここはマンションの一室、美樹(みき)はリビングの長椅子でごろ寝をして、天井を眺めていた。
妊娠をしているせいか、このところ血圧が低い。
二十六歳となった美樹のお腹は日に日に大きく肥大していた。
中にいるのは胎児の直樹だ。
(この道で正しかったのかしら? それとも結婚しないで、親にならなければ正解だったのかしら? わかんない!)
そこまで考えて、美樹は首を横に振った。
(いや、いや、いや、七十六歳の堀越(ほりこし)先生は強がっていたけど、ほんとうは寂しかったんじゃないだろうか? だとしたら直樹を産むのは正解だわ)と、思い直したりする。
まだまだ人生は長い。
そんなある日、結婚して孝典と住んでいるマンションに乳母車と一緒に封筒が届いた。
差出人は《コウノトリ》だ。
「だれ?」
こんな匿名でプレゼントを送ってくる友人に心当たりはなかった。
「やだ、変な宅配業者の押し売りかしら?」
怪しみながら封筒を開けてみたら、中には手紙と何枚か写真が入っていた。
これを見たなり、大きな溜息とともに美樹の顔に満面の笑顔がこぼれる。
今の選択に、あやまりはなかったという証明書のようなものだったからだ。
と、同時に戦慄すべき未来を暗示する警告でもあった。
それはタイムマシンの復活を意味するからだ。
(ヤバイじゃん! これからも時代から抹消されたり、人知れず消される不都合な事実がでてくるんじゃないの? そんな真似を続ければ、いずれ人類は時をコントロールできずに破綻してしまうかもしれないよぉ~! あのバカ嫁、まーたやらかして! やっぱり生みだしたものを捨てきれないんだぁ~、どーしよう!)
彼女が知る限り、タイムマシンにかかわる人々で危険なのは三雲だけだった。
あとは人畜無害な善人ばかり――
だが彼女は「人間なんか信用できない! しょうがないなぁ~、また、下手したら堀越先生のパート、ツゥーやんか!」と、不安を拭いさることができなかった。
手紙には《ごめんなさい! お義母さん! これ一回で発明はぶっ壊します!》と、書いてあるものの、美樹は眉をひそめた。相手はマッドサイエンティスト、信用はできない。
「あの岩井(いわい)麻子(あさこ)が約束を反故にしなくても、研究費を投資した企業がせっかく開発したタイムマシンを手放すわけないじゃん」と、美樹はつぶやいた。
人生はままならないもの、人はウソをつく生き物。それを経験で美樹は知っている。
美樹は写真を凝視した。
直樹(なおき)と麻子の結婚式の記念写真で、留袖姿の紗(さ)綾(や)と美樹が仲良く笑って写っていた。
その隣に満面の笑顔の孝(たか)典(のり)がいた。
もちろん麻子のほんとうの父親、泣き笑いしている佐藤(さとう)も、その隣で写っていた。
みんなとても幸せそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!