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純白の雪が降る、真夜中の薄暗い路地裏。
上空から降り注ぐ白と相反するそこでは、捨てられてたゴミにどぶ色のネズミが集り、残飯が周囲に吐き散らされていた。
人気はなく、ただ静寂だけが辺りを支配する中、革靴の深い音だけがその場で木霊する。
満たされない。
周囲から孤立した単色の世界に囚われていく中、次第に自身の感情が欲に塗れていく。
満たされない。
近頃は何を口にしても、満たされる事はなくなった。
学者、同性愛者、死体コレクター、殺人鬼、可能な限りの経験豊富な様々な記憶を喰ったが、一向に空虚感は消えず、寧ろ膨れ上がるばかりだ。
満たされない。
何故俺は、これ程満たされないのか。
何を求めているのか。
どれだけ思考を巡らせようとも、結論は遥か彼方へ消え去ってしまったかの如く、辿り着く気配はなかった。
それは“メモリア”の一族で有る俺に、堪え難い屈辱を与えていた。
「あ、あの……」
単色に染まりつつある世界で、ふと声を掛けられ、周囲が色づく。
声の主は幼い少女の姿をしており、この寒空の中、不釣り合いな薄着姿のまま、奥歯を小さく震わせていた。
どうやら人がいた様だ。
それに、よく見ればその少女、顔や体の所々に痣が見える。
もしや、人間の世界で生きる術を失った捨て子だろうか。
これはちょうど良い。
俺はそう思い、少女に1歩詰め寄った。
「君、美味しそうだね」
その言葉に、少女が身の危険を覚えたかのように見えたその時、俺はすかさず少女の腕を掴んだ。
引き寄せ、少女と向かい合い、真っ直ぐと目を見つめる。
腹が減った。
空腹が更なる追い討ちをかけ、少女の目は通り口となり、芳醇な香りを漂わせる黒い靄が吐き出され始める。
記憶の靄だ。
俺はすかさずその記憶の靄を深く吸い込むと、少女は途端に抜け殻の様に動かなくなり、その場に倒れ込んだ。
残るは舌に漂う後味のみ。
「違う」
だがその味は、俺の求めた味ではなかった。
コレもハズレだ。
さて、いつになれば俺は満たされるのだろうか。
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