第1話 芳醇な記憶

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「人間は、A.B.O.ABの4つの血液型が存在するが、コレは大きく分けた場合で、本当はさらに種類がある。 そうでなければ、A型とB型の間に生まれた子供がO型何てあり得ないだろうからね。 コレはふたりの……」 授業というものは、実に退屈だ。 教室という囚われた監獄の中、定められた知識を平等に生徒に与え、教育する。 結果個体差はあるが、似た知識を持つ人間が次々と製造されていくのは、むしろ必然といえよう。 俺は、こんな下らない事の為に教師になった訳ではない。 俺が求めているのは、その更に先にある個性ある特別な生徒、そして知識だ。 だが生徒は、そんな俺の思考に誰一人として気付かず、今も静かにホワイトボードの上に水性マジックで流れるように書いた空虚な世界をノートに写す。 そんな中、授業終了のチャイムが流れると、漸く俺たちは釈放され、生徒は息を吹き返したかの様に晴れやかな表情を見せた。 「今日はここまで、皆予習しておく様に……」 何の変哲も無い典型的な言葉で終わり、水性マジックの蓋を閉め、教科書を閉じる。 さて、次はどのクラスで教えるのだったか…… 「二階堂(にかいどう)先生、今日の授業なんですけどー」 意識を移動しながら切り替えようとすると、女子生徒のひとりが俺の名を呼びながら、ノートを持ってこちらに近づいて来た。 面倒だな。 授業終了後のこの問いかけは基本、先程の授業内容が純粋に理解出来なかった可能性と、こちらに好意を抱き、単純に引き止めたかった可能性が大きいのだが、彼女の艶めいた声や熱っぽさの感じる頬を見れば、どっからどう見ても後者である事が目に見えて理解出来る。 だからといって邪険に出来ないのが、教師の辛い(さが)といえよう。 一先ず軽く授業の説明をし、要望通り彼女の頭を撫でると、満足げに微笑んだ。 これで十分か。
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