第3話 過去の記憶

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これは、まだ俺がメモリアになる前、人間であった頃の話。 時は1916年、20年程度しか無かったあの大正時代だ。 丁度、オーストリア=ハンガリー帝国のフランツ・フェルディナントと妻がセルビアの青年に暗殺され、それが引き金となり起こった第一次世界大戦真っ只中の時期。 俺は、都内の古びたビルを拠点とし、便利屋を営んでいた。 従業員は俺を含め、3人の小さな事務所。 とはいえ、依頼される仕事内容は現代の派遣業と変わらない内容も多く、イベントの設営や、チラシ配り、はたまた子供の迎えや、部屋掃除、稀に迷子探しもあった。 戦争がきっかけで大正バブルに入る少し前だった為か、海外への輸出も盛んになり始め、そんな中、荷物運びの依頼も引き受けている。 そんな、ひり付いた空気の漂う情勢ではあったが、依頼内容に危険な可能性がある案件は、引き受けないよう心がけていた為、今の今までそれ程大きな問題を抱える事はなかった。 そう、あの男が事務所を訪ねるまでは。 男は英国貴族が身にまといそうな真っ黒なローブを羽織り、杖を突いており、風貌だけでもかなりの権力者である事が理解できた。 「人探しをお願いしたい」 その男はそういうと、突然俺達の前に大量の金を無造作に置く。 その金額は通常の依頼金額を遥かに超える大金で、その場は瞬時に凍りついた。 相手の立場上、下手に追い返すことも出来ず話を伺うと、探している人物というのは、どうやら幼い白人の少女らしい。 戦争真っ只中に、異国の少女。 どう考えても裏がある、そう思うのが普通だろう。
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