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次の配達先は、ザックスじいさんの家でした。お父さんの古い友だちで、アンナのことも自分の孫みたいに可愛がってくれます。行くといつも温かい飲み物をごちそうしてくれました。ここぞとばかり、アンナは口をとがらせて、日頃の不満をザックスに話しました。牛飼いなんて大嫌い!
するとザックスは、昔の話をはじめました。アンナのお母さんは若いころ、本当に素晴らしい魔法使いだった。お父さんと結婚し、アンナが生まれた。あるとき赤ちゃんが原因不明の高熱を出した。お母さんは、魔女の掟を破り、この子の命が助かるなら二度と魔法が使えなくてもいい、と言って神様にお祈りした。赤ちゃんの熱が下がり、その後、お母さんは魔法を使わなくなった。病気が治ったのは必死に看病したおかげ、神様に義理立てしなくてもいいじゃないかと、みんなにいくら言われても、やっぱり魔法は使わなかった。
ザックスじいさんの家を出たアンナは、胸がポカポカしていました。
家に帰ると、お母さんは洗濯物を干していました。
「お母さん、ザックスじいさんから、お母さんの昔の話を聞いたよ」
「フン、まったく。年寄りの昔話ほど、バカバカしいものはないよ!」
お母さんは、照れくさいのか、怒ったような口調で答えました。
夕飯は、アンナの大好物の、シチューでした。一口食べて、思わずお父さんと顔を見合わせました。
「美味しい。まるで魔法みたい」
「料理の腕だよ」と言って、お母さんは二の腕をパンパンと叩きました。
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