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「怪しげな動きをする肉切れには、くれぐれも気をつけるんだぞ」
と、注意する父蟹の頭上に、大きな貝の肉切れが、ヒラヒラと踊りました。
「おっ、これは大きい。逃してなるか。」
父蟹が、ハサミでその肉切れをつかみ、口へ運んだとたん、父蟹の姿は、するすると水面の上へと昇って消えてしまいました。
浜辺では、翔太の妹のナオちゃんが叫びました。「パパ! 釣れた釣れた。」
お父さんは、青いバケツを覗き込みました。
「ほー。こりゃデカイ。ここらのヌシかもしれないよ。だが、まあ、ビギナーズラックというやつだな、うん。」
もっとデカイのを釣らねばと、焦ったお父さんの表情が険しくなりました。
「あっ、あっ、来た来た、釣れたあ!」
次に叫んだのは、お母さんです。おっちょこちょいな母蟹が釣り上げられたのでした。バケツを覗きこんだお父さんの表情はますますきびしくなりました。
たてつづけに両親を失った兄蟹と妹蟹は、あわてふためき、途方に暮れました。しかし、やがて、兄蟹は、肉切れだけを奪い取って、人間に一泡吹かせてやると、決意したのです。
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