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なにがなんでも一番の大物を釣ろうと焦るお父さんは、大きな肉切れを針金の先につけては、岩のすきまを探りました。そして、両親の仇討ちを決意した兄蟹に、何度もエサだけを取られていました。
その兄蟹を釣り上げたのは、翔太です。一瞬の気のゆるみが命取りでした。兄蟹は、気がつくとバケツの底にいました。
バケツの底には、たくさんの磯蟹がいました。ヤドカリや、小さなツブもいました。兄蟹は両親を見つけました。父蟹は、いじけてバケツの隅で肩を落としていました。とても声をかけられる雰囲気ではありません。
また新たな蟹が、空から降ってきました。バケツの底は蟹たちで満員です。
「おや、あなたもついに釣られましたか」
「いや、面目ない。ご覧のとおりです」
などと、なさけない挨拶が交わされました。
一方、岩陰にたった一匹とり残された妹蟹は、泣いていました。この先、どうやって生きていけばいいのでしょう。
夕方になりました。翔太たちは、そろそろ後片付けをして家に帰る時間です。蟹で一杯のバケツの底を覗きこんで、お父さんが言いました。
「さあ、海に返してあげよう」
「ええええ? せっかく集めたのに!」
翔太がそう言うと、妹のナオちゃんが言いました。
「キャッチ・アンド・リリースだよ、お兄ちゃん。」
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