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それを聴いていたしずくたちは、コーヒーの味というものを、様々に空想しました。
「わたしなんて、フランスのブドウ畑に降って、ブドウの果汁になって、収穫されて、ワインになって瓶に詰められ、そのあと倉庫で十年も寝かされたあと、三ツ星レストランの食卓に上ったのよ」
ワインになった話というのは、いつでも聴衆たちから一番うらやましがられる話でした。しずくたちは、うっとりとして、高級レストランの様子を思い描くのでした。
しかし、しずくたちに、いちばん深い満足を感じさせるのは、動物や人間の体の一部になって過ごした話です。この地球上の生き物の体にとって、水は欠かすことのできない大切なものだからです。
しずくたちは、自分たちがこの青い星に命を育んできたという誇りを持っています。そして、様々な、美しい命でこの星が満たされていることに、深い喜びを感じていました。
しかし、よいことばかりではありません。しずくたちは、時には、寄り集まって恐ろしい台風や、暴風雨や、もっと恐ろしい津波にもなります。そうして地上の生き物たちに襲いかかり、容赦なくその命を奪うこともあるのです。しずくたちは、そのことを思うと、いたたまれない気持ちになるのでした。
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