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悲しんでいるのは、お母さんや、みゆきばかりではありませんでした。冷蔵庫の中で、自分の出番を待っている食材たちも、思いは一緒でした。せっかく食べられて栄養になろうというのです。なのにひとことの美味しいも聞けないとは。料理にしてくれるお母さんにも失礼というものです。なんとかしなければ。
冷蔵庫の、暗闇の中、食材たちは、おでこを付きあわせ、ひそひそと相談しました。
「ほんとに美味しくないとはどれほどのものか、目にもの見せて、いや、舌に味わわせてやろうじゃないか」
食材たちは、その気になれば、自分の美味しさを封印して、とても不味い味に変身することも出来るのです。
「だけど、それじゃあ、お母さんが料理に失敗したと思われちゃうなあ」
「それだと、お母さんに悪いねえ」
食材たちは、うーん、と首をひねりました。
「聞いたわよ」
食材たちの後ろから声がしました。みゆきが食材たちのひそひそ話に耳をすましていたのです。食材たちはびっくりしましたが、おかまいなしに、みゆきは言いました。
「わたしにいい考えがあるの」
母の日になりました。お母さんは家事をお休みする日です。お父さんは、掃除、洗濯、庭の草むしり。お兄ちゃんは、「肩たたき券」を発行しました。そしてみゆきは、夕飯を作ります。
みゆきは料理の前に、食材たちにそっと話しかけました。
「用意はいい?」
「でも、みゆきちゃん、料理が下手だって思われちゃうよ」
「いいの。ほんとに下手っぴだから」
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