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ピアノの恋人
北国の、さびれた港町の、人かげもまばらな通りの奥のほうに、そのさびれた酒場はありました。たいへん狭い店でしたが、カウンターの横の壁ぎわには、小さなステージが設えてありました。
そこには、古いベースと、ドラムセット、そして、古い古いアップライトピアノが置いてありました。といっても、この店で、週末ごとにジャズの音色が鳴り響いたのは、もうずいぶん昔の話です。店主であるバーテンダーのおじいさんも、最後のライブが何年前だったか、すぐには思い出せないほどです。
楽器たちも、ながらく、まともに音を出していないので、自分たちが楽器だということも忘れがちで、もともとただの置物だったような気すらしてくるのでした。
この港町に活気があった時代には、繁華街もにぎわっていて、この酒場も繁盛しました。週末には、ジャズの音と、客たちの笑い声が満ちあふれていたものです。
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