フェイバリット・フロッグ

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 ぴるぴるぴる、ぴるぴるぴる……。  近所の庭の柿を狙って、ヒヨドリがうるさく飛びまわっている。雨戸の隙間から、私の首筋に似た生白い朝日が差し込む。カーテンの模様の陰が、細すぎる手の甲の静脈に重なる。  昨日の予報通り、今日は晴れらしい。でも、雨戸は開けない。朝日は、まだ怖い。  朝日を見ると「学校へ行け」と急かされてる気がして、内蔵が悪魔の手にぎゅうっと握られてるみたいに痛みだす。指先が晩年のおばあちゃんみたいに震えて、膝に力が入らず、立ち上がれなくなる。心臓がどきどきして、目の前がかすんでくる。  そんな状態だったにもかかわらず、元自衛官で筋肉バカのパパは「這ってでも行け」と力ずくで毎日私を家から押し出して、私が嫌すぎて泡を吹いてぶっ倒れて救急車に運ばれることになっても許してくれなかった。だから退学になるようなことをして、自主的に追い出されることにした。昔の歌に倣って、校舎の窓を全部割ったのだ。腕と顔を何針か縫うけがをしたけど、願いは叶った。  私が外に出られるのは夜なので、日が暮れるまでの時間は無理にでも寝てやり過ごすか、スマホをいじって時間を潰す。  惰性に任せて一日をやり過ごし、再び夜が来た。  夜は私の苦手な人たちが寝ているはずだから、自由。女の一人歩きは危ないって、パパが中野で買ってきたスタンガンを持たされているけど、いざとなった時、使えるかどうか分からないし、私には必要ない。  夜とひとつになれるような、全身真っ黒の服を着る。スカートは履かない。女の子っぽい服は嫌い。髪型も男の子にも見えるぐらいのショート。ママに会いに行くと言って家を出る。パパは背中を向けたままいつも何も言わない。  原色のネオンサインがきらめき、お酒と香水と吐しゃ物と化粧品のにおいがごちゃ混ぜになった路地を抜け、切れかけた蛍光灯がチラつく裏口から、合い鍵で扉を開ける。 「ただいま」  返事がないと分かっていながら、そう言って玄関に靴を脱ぐ。  ここはママが働いている、繁華街から少し離れたところにある住居兼スナック。ママはお店に出ているから夜は会えないけど、こっちの家は朝まで起きてるし干渉されないから、私には居心地が良い。
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