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「ハタさんまでそんなこと言って……。ノリで飲ませる気でしょ?」
「そんなことする奴がいたら、あたしがしめあげてやるから、大丈夫よ」
チーママ(ママの隣りで働いてる人)のアキさんが、ノトさんよりも太い腕をぐるりと回して言った。
アキさんは、元女子プロレスラー。身体の怪我ではなく、心の病でリングを降りて、ファンだったママに拾われてここで働いている。
私はちらちらと帰ってほしそうな視線を送ってくるママの目が気になったけど、アキさんの言葉に背中を押されて、皆の前に出ることにした。
「……こんばんは」
「こんばんは~。どちらかというとパパ似なのかな?」
「美人さんだよ~」
「今すぐにでも、アイドルになれる!」
お客さんが口々に褒めてくれる。嬉しいんだけど褒められ慣れてないから、どうリアクションしたらいいのか分からない。ママが困ったような、それでいて少し誇らしげな顔で「何はにかんでんのよ」と、軽いツッコミを入れた。
「あの……そのカバー、どこで?」
私はハタさんのスマホカバーを指さして言った。
「ああこれ?在庫が余っちゃって、仕方なく使ってるの」
「在庫?」
「プレゼント企画で編集部が作ってくれたんだけど、思ったより応募が少なくて、余っちゃったんだよ」
私はハタさんの言葉の意味がすぐには理解できなかった。
「あの……それって、ファニー・フロッグのキャラケースですよね」
「そうそう。よく知ってるね。あの本売れなかったから、嬉しいよ」
私は信じたい気持ちと、信じたくない気持ちが交互に押し寄せるなか、訊ねずにはいられなかった。
「ハタさんて、漫画家さんですよね?」
「や、そうなりたかったけど、肉体労働者だよ」
「そうじゃなくて、ファニー・フロッグを書いたアマドリさんて……」
「あ、それおれおれ」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
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