フェイバリット・フロッグ

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 私があからさまにショックな声を上げたので、みんな驚いてぽかんとした。ハタさんが申し訳なさそうな顔で言った。 「言わない方が良かったかな。やっぱり、そういう反応になるだろ?いや、気にしなくていいよ自覚してるから。漫画が売れないからきらきらしたファンタジー小説を書いてみたら案外、編集部には評判良くて出版されることになって、おれみたいなハゲたオッサンが書いてるってバレたら売れなくなるから、個人情報一切出さずに、覆面作家で出版したんだ」  作品が好きなだけで、作家さんがどんな人でも文句は言わないでおこうと思っていたけど、あまりにもイメージと違った上に、そう遠くないところにその人がいたと知って、私はへなへなとカウンターに座りこんでしまった。 「そういえば、あんたあの本好きだって言ってたわよね。あたしも知らなかったわよ。作者がハタさんだったなんて」 「ライトノベルなんてママ読まないから、話しても分からないと思って話さなかったんだよ」  ママとハタさんのやり取りを、潜水艦のなかから聞いてるような気持ちで、私は聞き流していた。 「そうだママ。あの曲歌ってよ。ミサちゃんと一緒に」  場の空気を読み、アキさんが助け船を出した。 「ミサキと?」  ママが困ったような顔で私を見た。 「ママ、わたし歌いたい。歌お!」  カラオケは嫌いだし、ママと一緒に歌ったこともなかったけど、私は半ばやけくそでそんな台詞を吐いていた。 「ヨッ!」  ノトさんを筆頭に皆がパチパチパチと笑顔で拍手をし、引くに引けなくなったママは、仕方なくマイクを2本とり、一本を私に渡して、カラオケのリモコンを操作した。  イントロが流れ出す。どこか古臭い、でも私にとってとても懐かしいメロディ。  その曲は、ママの故郷である、フィリピンの歌だった。歌詞の意味は分からないが、ママに幼いころから聴かされてきたので、私も自然と歌えるようになっていた。
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