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死んだと思った。
社会人四年目。日付が代わり、めでたく二十二歳になった僕は、いつも通りの時間に家を出て会社へと向かっていた。
コートのポケットの中でお守りとして持ち歩いているリングケースを弄びながら歩いていると、不意に僕の上空からクラッカーにしては強烈な音が鼓膜を刺激する。音の方へと視線を向けると、そこには軽自動車があった。
飛んでいる。地面を走ることを嫌ったのか、宙を舞っている。時代を先取りし過ぎではなかろうか。
立体駐車場が近くに建っているので、恐らくそこから飛び出してきたのだろう。運転手は乗っておらず、自動車の独断のようだ。
どうしてこんなことになっているのかは、わからない。
ただ、お守りとして持ち歩いているリングケースにご利益がないことだけは判明した。
今日が誕生日である僕への死神からの誕生日プレゼントだろうか。あの世への片道切符までおまけでついている。
どれだけ楽観視しても、助かりそうにはない。
目の前の光景がゆっくりと流れており思考だけがフル回転しているが、足は完全にすくんでいて脳からの逃げろという命令を受け付けない。
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