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今私のいる空間は今まで見たことないくらいに清潔で衛生的でおしゃれなところであった。寝ていたベッドは触り心地がよく驚くほどやわらかかった。いつも私が使っていた固くてかぶるとかゆくなる毛布とは何もかも違っていた。窓から見える景色は管理された庭園が見える。規模や管理状態から言って個人の趣味レベルのものではない。間違いなくここはお金持ちや貴族といった私とは縁のなかった人物の住まいであろう。そういった人間が私にいったい何の用があるというのだ。
何の不満のない空間であったが、逆に居心地の良さが私には違和感しかなかった。いっそ掘立小屋で適当な処置をされ隅っこにほっておかれるほうがまだましな気がする。今まで私は水に近い粥を口にし、食べられる雑草を探して食んでいたのだ。身分不相応な扱いが過ぎる。ろくでもないことに巻き込まれたとしか思えなかった。
その場でじっとしていることもできたが、できる限り置かれた状況をこの目で見ておきたかった。得体のしれない場所で得体のしれない人物の話を何の情報もないまま聞くことは避けたかった。もっとも分かったところでどうにかなるとも思ってはいなかった。ただの心構えの問題だ。
体のあちこちは痛むが、動けないほどではなかった。ベッドから降りて立ち上がろうとした瞬間その場で派手に転げ落ちてしまった。足腰に全く力が入らなかったのだ。そして奇妙なことが分かった。その時、胴体と顔を割と強めに打ったのだがまったく痛みはなかった。私になされた治療はかなりまともじゃないと分かった。麻酔の一種ということもあるのだろうがこれは体感してみないと分からない、もっとおぞましい何かだった。
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