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ひとしきり、そう叫んだ。
今までに見た事の無い剣幕に押され、イシオは体を強張らせ、何も出来ずに立ち尽くした。荒い呼吸で肩をいからせるマルクは、最後に言った。
「じいちゃん、この街のみんなが無気力になってるって言ったけど、父さんもここまでそうだとは思わなかった。……俺はもう、無力なのは嫌なんだよ」
その目には、熱があった。育てて来た筈の息子なのに、自分の知らない顔をしていた。
自分はいつから、この子の目を見てやれなくなっていたんだろう。
マルクは、涙目になるイェウルと戸惑っているタウロに向かって歩いて行き、逃げる算段を始めた。マルクは、彼が子供の頃に着ていた古着の裾と襟を折り、イェウルに何とか動きやすい服装にさせる工夫を。タウロは、僅かに持ち出した自分の配給食とマルクの分の配給食、そして幾らかの金を鞄に。イェウルは差し出された服を、奥の部屋で着替えに行った。
皆、明日を生きる為に、僅かな時間をも惜しんで行動していた。
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