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宇宙人の逆襲
「……女ども、泣くな。局様に叱られるぞ。我らのなすべき事をなせ」
十兵衛は奥女中らに言って部屋を出た。ようやく春日局の夫や息子、家光に十兵衛の父宗矩もやってきた。
(そうだ、なすべき事をなさねば…… 局様、見ていてくだされ)
十兵衛にとってのなすべき事とは、江戸を守る事だ。
いや、心穏やかに過ごす人々の笑顔を守る事だ。
その命がけの道が、彼の選んだ道なのだから、勇ましく進まねばならぬのだ。
***
後日、十兵衛は部屋で三池典太の手入れをしていた。
側には仏法画に描かれた天女のような衣服をまとった春日局が、宙に浮きながら十兵衛の所作を見つめていた。
十兵衛以外には見えないので、この天女春日局は彼の見る幻覚かもしれない。
「暇ねえ……」
天女春日局は大きなあくびをした。
外見は二十代前半の、妙齢とも年増(江戸の頃は二十歳を過ぎると年増と言われた)ともつかぬ美女であった。
「なんかこう、魔物が江戸城に攻めてくる……とか、そんなイベントないかしら」
「つ、局様……」
十兵衛は苦笑せざるを得ない。
春日局が他界したのは寂しいが、今は天女になって側にいるのだ。
なんとも不思議な気分ではないか。
天女春日局も、人間だった頃の張りが抜けて、今は随分と楽しそうだ。
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