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「それなら川柳を詠んでみるってのはどう?」
正面に座った先輩が薄く微笑みながらそう言った。
真っ白な原稿を前にうんうん唸っている僕をみかねてのアドバイスだ。
「川柳ですか?」
「そう。君は本を読むのは好きだけど、書くのは苦手みたいだからね。色々考えすぎて文章が出てこないタイプと見た」
当たっている。僕はどんな書き出しで始めるべきか悩んでいて、まだ一行も書けていなかった。
「その点、川柳は五・七・五の十七文字。単純に短いから簡単そうでしょ?」
そうだろうか。たった十七文字でなにかを表現するなんて普通の文章よりもよほど難易度が高いのではないか? 俳句と比べれば季語の制約がない分、簡単とも言えるが逆に言うと……
「はい、グダグダ考えない! ほら、周りをよく見て。目で見たものをそのまま言ってみる!」
先輩がぐいっと顔を近づけてくる。僕はなんだか顔が熱くなり、焦ってキョロキョロと部室を見渡した。
6畳ほどの部屋に大きな本棚が二つあり、雑多なジャンルの本が適当に並べてある。本棚の一角にはミステリだけが並んでいるスペースがあり、そこはミステリ好きの先輩の占有スペースだ。
本棚の他には掃除用具が入った大きなロッカー、机に椅子。何が入っているか知らないダンボールが数個、床に置いてある。
壁には掲示板があるが特に何も貼られていない。
それ以外には窓と戸があるだけで、殺風景な部室だ。
この部屋で一番目につくのは正面に座っている可愛らしい先輩だった。
「さ、詠んでみて」
先輩と
二人で部活
嬉しいな
「ぷふっ、あはは」
僕がなんとか捻り出した川柳を聞いて先輩は笑いだした。
僕は恥ずかしくなって耳の先っぽまで紅くなっている。
「とても純朴で素直な感情が出た良い川柳だね。子供っぽいけど、そこが普段グダグダ能書きを垂れている君とのギャップがあって、より可愛らしい。うん、私は好きだよ」
笑うのをやめた先輩がまじめに感想を言ってくれた。
あんまり褒められていない気がしたが、先輩が楽しそうなので僕は嬉しかった。
「その調子で二十句くらい詠んでみようか。出来の良いのをいくつか選んで私が講評を書くよ。そうすれば誌面は埋まるね」
「講評まで書いてくれるんですか? そんな、ありがとうございます!」
図らずしも先輩と僕との共同執筆になり、無事に部誌は完成した。
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