第2話 初めてのお使い

5/7
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
 午前中の町はまだ目覚めていないようだった。花売りは仕入れた花々をバケツへ仕分けるのに忙しく、飴売りはやっと砂糖を火にかけるところだ。雑貨屋カラリにも店員しかおらず、通路には様々な商品のダンボールが置かれたままだったが、すぐに砂糖とベーキングパウダーを買えた。  しかし、ベーカリースズノだけは例外だった。よく磨かれた大きな窓から様子を伺うと、狭い店内には人がひしめき、カウンターのケースに並べられたパンはみるみる減っていく。店に入りたくとも、次々と人が出てくるために入るタイミングをつかめない。  もし人とぶつかって怪我をさせればすぐ通報され、鶏に蹴られる以上に奥様から叱られることを予測しては、強引に入ることを躊躇した。  やっと店内に入ることができたのは、人がいなくなり、ケースからすっかりパンがなくなった頃だった。私は目的を果たせないときに適した解決策を考えつつ、カウンターに立っても背を向けたまま忙しなく働く中年のおかみに声をかけた。 「すみません、カンパーニュはまだございますか」 「あと五分で次が焼きあがるから、それまで待っててもらえる?」  おかみはやっと振り返ったが、私を見ると息を止め、非常に驚いた顔をした。 「あなた、どこの子?」 「町外れにある屋敷の自動人形です」  私はすぐにリュックのIDカードを提示した。するとおかみは「ああ、なんだ、そりゃそうだ」と言って拍子抜けした顔をしたが、今度はまじまじと私の顔や姿を確認した。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!