第2話 初めてのお使い

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「ごめんごめん。子供の頃好きだった男の子にそっくりだったから、びっくりしてさ」  奥様も同じようなことを言っていたが、奥様とおかみには随分歳の差がある。 「よくある顔でしょうか」 「こんな美少年がよくいるもんですか。だから覚えてたのよ。しかし、見れば見るほど彼に似てるわ。声までそんな感じだった気がするよ」 「あなたよりずっと歳上の、屋敷の奥様の初恋の方がモデルなのだそうです」 「へええ。昔から、初恋の美少年の定義は変わらないってことかなあ。町外れにある屋敷って、あの幽霊屋敷のこと?」  私は頷いた。昨日の私の認識は、やはり外れていなかった。 「魔女が住んでるって噂だったけど、まさか自動人形を弟子にするとはね」  そうしているうちに、工房から店の主人と思われる男性がカンパーニュを運んできた。丸々と大きなカンパーニュは上部がぱっくり四つに割れ、こんがりしたきつね色に薄く小麦粉が施されている。  おかみはひとつを手際よくパラフィン紙に包み、金色のインクで鈴の絵が印刷されたクラフトの紙袋に詰め込むと、同じ袋にママレードの小瓶を忍ばせた。 「カンパーニュだけで結構です」 「あなたが可愛いから、これはおまけよ。奥様によろしく伝えて」  おかみは笑ってウインクをすると、私に紙袋を渡した。化粧っ気のないそばかすが浮かぶその顔は、最初に振り返ったときより若く見えた。    *
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