26人が本棚に入れています
本棚に追加
トマトのジャムを渡すと、スズノのおかみはとても喜んだ。
「魔女から贈り物を頂くなんて光栄」
「奥様は魔女ではございません。否定されておられました」
「うわ、怒らせちゃった?」
「お怒りではございませんでしたが、悲しそうでした」
それを聞いたおかみは、ふと真顔になって頭を下げた。
「それはごめんね。悪く言うつもりじゃなかったんだ。結婚してこの町に来て、初めてあのお屋敷の前を通ったとき、ほんのちょっとだけ門が開いてたから、なかを覗いてしまったの。そしたら外があんなに草ぼうぼうなのに、夢みたいな庭があるじゃない。でも私は越してきたばかりだったから、遠慮して呼び鈴を鳴らすことができなかった。しかも町の皆はあの屋敷のことを幽霊屋敷って呼んでいて、人嫌いの魔女が住んでるって言う。とても近寄れる雰囲気じゃなくなって、ずっとどんな人が住んでるのか気になってたんだけど、うちのパンを気に入ってくれてたなんてうれしいよ」
おかみの隣でクロワッサンをケースに並べていた主人は、私たちの話を聞いていた。
「いや、俺たちも悪い魔女と決めつけていたわけじゃない。知り合いもいないし、不思議な人だったから魔女みたいだなと思ってただけさ。うちの子供たちにも、あそこは幽霊屋敷じゃなくて、やさしい魔女と可愛い自動人形が住んでる素敵なお屋敷だと伝えておくよ」
「魔女ではありません」
「魔女は魔女でも善い魔女だよ。奥様にそうお伝えし直しておいてくれってば」
「そもそも、あそこはいつから幽霊屋敷って呼ばれてるのよ」
最初のコメントを投稿しよう!