第3話 幽霊屋敷と魔女

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 おかみの質問に、主人は眉間に皺を寄せて何かを思い出そうとしている。 「俺が子供の頃は人が住んでなくて、本当に幽霊屋敷だったんだ。そこに魔女が越してきたのが二十五年前、いや、それよりもうちょっと前になるのかな。ある日突然、屋敷に明かりが点いてることに気がついた奴がいて、たぶんそいつが魔女だって言い始めた」 「二十五年って、案外歴史が浅いんじゃないの。五十年くらい住んでるのかと思ったら」 「まあ聞けって。魔女って言われてたのにはもうひとつ理由があって、あの屋敷に住んでたのは魔女だけじゃなかったんだよ。最初は子供がいたはずなんだ」  それは私も初耳である。奥様からそのような話は聞かされていない。 「俺も直接見たわけじゃないから詳しいことはわからない。見た奴にしたって、ある奴が女の子だったって言えば、別の奴は男の子だったって言う。でもいつの間にか子供の気配はなくなって、魔女がひとりで住んでいた。それで子供を攫って食べる魔女だと噂になった」 「なんだかばかばかしい話ねえ」 「真偽が定かじゃないことに、尾ひれをつけて広めたくなるのが人間だろ」 「ごめんねモナート。奥様にはよく謝っておいて。それから、ジャムをありがとう」  おかみはそう言って、カンパーニュが入った紙袋にシナモンのクッキーを入れた。    *
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