第3話 幽霊屋敷と魔女

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「申し訳ございませんでした。町外れの幽霊屋敷と、魔女のことについて調べたいのです」 「まあ、あのお屋敷。それならわかりやすいわ」  レナード司書は私をレファレンスカウンターに案内すると、しばし待つように言い、閉架書庫へ姿を消した。ほどなく戻ってきた彼女は、分厚い住宅目録を手にしていた。 「あのお屋敷は古いから、ちゃんと記録が残ってるの」  屋敷が建造されたのは、今から百二十三年前のこと。持ち主はスーノ伯爵夫人、リリオ・スーノ。太陽を表すスーノの名を持つ伯爵は、その名の通り明るく朗らかな好人物であったらしい。かの屋敷は、愛妻家であった彼が肺を患っていた妻リリオのために、都会の喧騒から離れた静かな場所で過ごせるよう建てたものだった。  草花の好きな夫人は美しい庭を見て大変喜んだが、屋敷で過ごしたのは僅かな時間だった。伯爵の願いも虚しく、夫人はそこで一年あまり暮らしたのち、帰らぬ人となってしまったからだ。伯爵が後妻を迎えることはなく、夫人の愛したこの屋敷で、晩年まで彼女を偲んで過ごしたという。  伯爵夫妻には子供がいなかった。よって伯爵が亡くなった時点で屋敷は人手に渡ることになる。しかし、どこからも遠い場所にある屋敷のこと。なかなか買い手はつかず、買われてもすぐ売りに出されることが多かった。  購入者も独り身の変わり者が多く、美しかった庭は次第に荒廃していった。住む者が孤独死している状態で発見されることが何度か続くと、誰も屋敷に寄りつかなくなった。それが今から五十年ほど前のことらしい。そこから二十年あまり、屋敷は不動産屋の売家リストの隅に追いやられ、放っておかれることになる。
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