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レナード司書に少年の名を訊ねたが、住所と綺麗な顔ばかりが印象的で、名前は覚えていないという。人間の記憶能力はこのようなところがいけない。私なら、一度見聞きしたことはすべて記憶しているのに。
その上一度も利用がなく更新手続きもしないまま二十年以上が経過すると、利用者名簿からも記録が削除されてしまい、調べる術はないらしい。
奥様、スズノのおかみ、レナード司書の話を正直に信じれば、私と同じ顔をした少年が三人存在したことになる。
おかみとレナード司書の言う少年は、年代的に同じ少年なのではないかと思ったが、おかみは結婚してからこの町に来たと言っていた。子供の頃に好きだったということは、また違う少年なのかもしれない。
いや、かの母子は別の町から越してきたのだ。二人が以前住んでいた町が、おかみが住んでいた町と同じ町だったとしたら?
ぐるぐると考えを巡らせながらバスに揺られているうちに、人気のない寂れたバス停が見えてきた。
*
夕食の後片付けを終えると、改めて部屋にあるものを調べた。思えばどれも古いものばかりで、新しいのはノベルティでもらったリュックぐらいのものだ。
地球儀も天体望遠鏡も図鑑も本も、すべてその少年のものではなかったか。服や靴が私にぴったりであることも、私が彼をモデルに作られたからにほかならない。
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