第2話 初めてのお使い

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 裏庭の菜園にある鶏小屋には、二羽の雌鶏と一羽の雄鶏が飼育されている。鶏は私が近づくと、けたたましく鳴き騒いだ。おそらく彼らには、私が人間でないとわかるのだろう。  それでも網の隙間から腕を伸ばし、ふたつの卵を拾い上げた。しかしそのとき暴れた一羽の雌鳥に蹴られて、右腕に若干の傷がついてしまった。  その傷を見た奥様は、ひどく恐ろしい顔で私を叱った。 「モナ、あなたは人間と違うの。ついた傷はお店に行かないと直らないのよ」 「申し訳ございません。鶏が暴れて」 「そういうときは無理をしないで。保証期間が一年あってよかったわ。あとで電話しといてあげるから、朝の仕事を終えたらすぐお店に行って直してらっしゃい」 「私ひとりでですか?」 「ええ、そうよ。私が町に出なくてもいいようにあなたを買ったんだから。ひとりでもバスに乗れるわね?帰りにパンとお砂糖とベーキングパウダーも買ってきてくれると助かるわ。パンは自分でも焼けるけど、美味しいお店があるのよ。なかなか買いに行けないから困ってたの。これからは、あなたに買いに行ってもらえるとうれしいわ」  労わるように私の腕をひと撫でした奥様は、もう怒っていなかった。小ぶりな鉄のフライパンに卵を落とすと、香ばしい成分が漂うベーコンエッグを焼いた。    *
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