26人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
裏庭の菜園にある鶏小屋には、二羽の雌鶏と一羽の雄鶏が飼育されている。鶏は私が近づくと、けたたましく鳴き騒いだ。おそらく彼らには、私が人間でないとわかるのだろう。
それでも網の隙間から腕を伸ばし、ふたつの卵を拾い上げた。しかしそのとき暴れた一羽の雌鳥に蹴られて、右腕に若干の傷がついてしまった。
その傷を見た奥様は、ひどく恐ろしい顔で私を叱った。
「モナ、あなたは人間と違うの。ついた傷はお店に行かないと直らないのよ」
「申し訳ございません。鶏が暴れて」
「そういうときは無理をしないで。保証期間が一年あってよかったわ。あとで電話しといてあげるから、朝の仕事を終えたらすぐお店に行って直してらっしゃい」
「私ひとりでですか?」
「ええ、そうよ。私が町に出なくてもいいようにあなたを買ったんだから。ひとりでもバスに乗れるわね?帰りにパンとお砂糖とベーキングパウダーも買ってきてくれると助かるわ。パンは自分でも焼けるけど、美味しいお店があるのよ。なかなか買いに行けないから困ってたの。これからは、あなたに買いに行ってもらえるとうれしいわ」
労わるように私の腕をひと撫でした奥様は、もう怒っていなかった。小ぶりな鉄のフライパンに卵を落とすと、香ばしい成分が漂うベーコンエッグを焼いた。
*
最初のコメントを投稿しよう!