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足にぴったりな焦げ茶色のローファーを履き、帆布で作られたカラシ色のリュックを背負って屋敷を出た。
屋敷の他に何もない道は舗装されておらず、人の気配はまったくない。生き物と言えば、安心しきったリスや野ウサギがのんびり道を横切るのを見ただけだった。
一番近いバス停までは、歩いて十五分。バスは一時間に一本しかないが、なかなか時間通りにやってこない。時刻表から十分遅れてやってきた、玩具のようにコンパクトな赤いバスに乗って三十分、ようやく町へ着く頃には出勤や登校の時間も過ぎ、人通りも少ない。
朝一番の自動人形店にも客はいなかった。昨日の今日でもう修理に来た私のことを、昨日と同じ眼鏡の中年男性が呆れた顔で出迎えた。今日はスーツではなくデニムのエプロンをつけていて、昨日よりくたびれているように見える。彼の名前はクレイだと教えられた。
「しっかりしてくれよ、たった一日で傷を修理に来るなんて。久しぶりに完全オーダーメイドの依頼があって気合いを入れて作ったのに、返品でもされちゃたまらない。この程度ならたいしたことないが、あんまり大きな怪我をするなよ」
「はい。申し訳ございません」
そう言ったあとに、クレイは私を作ったが、主人ではないということに気がついた。私はなぜ彼に謝っているのか。そう思った私の眼を見て彼も何かを感じたのか、気を取り直すように咳払いをした。
「名前はつけてもらったのかい」
「はい。モナートです」
「モナートには月という意味があったかな。確かに昨日の満月は綺麗だった」
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