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まあ、僕のせいなのは自明の理だ。二年前の僕の態度に、君は凄く苛立ちを感じたんだろう。当時二十八歳の僕には当たり前の感情で、それは残念ながら今も変わっていない。
車を走らせ、僕のマンションに着き、部屋に入るなり君は夕飯の用意をする。包丁でまな板を叩く、スローで不規則なリズムの音が鳴る。
君は僕が隣に立って手伝うことを、やけに嫌がる。きっとそれは、僕の方が料理が上手いからだ。出来る方がやれば良いのにと思いながら、いつも通り不器用ながらも、そしていらいら顔でキッチンに立つ君の姿を眺めている。この光景も、もう随分と前からだ。いつからか隣に立てなくなっていた。以前は嫌がりながらも、隣に立つことを受け入れてくれてたのに。
僕はリビングのソファーに座り、セブンスターに火をつけて、なんとなくもやっとした気持ちを煙に乗せて吐き出す。
大した会話もなく夕飯が終わると、君はパーキングに停めた自分の車に乗って、家へと帰っていく。これもいつも通り。泊まることなんてめったになくなっていた。
夕飯の後片付けをしながら、シンクの流れていく洗剤の泡を見ていると、僕らの終わりも呆気なく来るのかもと考えてしまう。僕は君のことが好きだ。一緒にいたいとも思う。だけど、僕の生まれついての淡白な感情が、君にとっては不満なのだろう。理由は明白なのに、動こうとしない僕に、日々鬱屈としたものを溜め込み、今の現状に至ってしまったのか。こんな僕の何処が好きで、これまで一緒にいてくれているのか、僕には皆目見当もつかない。 僕の方はいたって簡単で、君がたまに見せる笑顔が堪らなく好きで、そのたまの笑顔にこそ君の本質があり、それを見れることが僕の幸せだと思うからだ。全部が好きである必要なんかない。たった一つの好きだって、立派な好きだ。でも、その笑顔も見なくなって久しい。想いのすれ違いが、今の僕らの共通項みたいだ。
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