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その朝教室は、正人がタケセンにしょっぴかれたという話題で持ちきりだった。なんでも、心理学ゼミの実験結果を捏造したというのだ。片掌を上に向けて空を見上げると何人が雨と勘違いするかというテーマの時点で、どう実験・判断するのか再現性がなんのかのと、教授のタケセンに目をつけられていたらしい。そしてアンケート結果までが偽物臭い、被験者の反応の判断基準も曖昧となって、とうとう御用というわけだ。
剽窃・コピペ・データ捏造は、見る人が見ればひと目で分かるようだ。年間何百枚のレポートを捌く教授陣をもってすれば、こちらがどれだけ趣向を凝らそうとも、すなわちそれっぽいデータを作ろうともお見通しなのである。確率論的にはどんなデータにだってなりうるしそれだけでしょっぴかれては堪らないという気がするものだが、とにかく正人のデータはいかにもこんな数字になるものかというものだったらしい。それでタケセンから、参考資料一切を持って研究室に来いとのお達しが出たのだそうだ。レポートには調査人数とパーセンテージしか載せていないものだから、アンケートを取ったときのメモを正の字でもなんでもいいから見せてみろ、と詰め寄られた。
以上のことを、恥知らずにも研究室の前で聞き耳を立てていた勇敢なる友人から教えてもらった。私は続きを促す。
「それで正人はどうしたんだ」
「それがタケセンは端から正人をクロと決めてかかってたらしくてね、どうせメモなんてとってないんだろう、白紙の紙でも出すかね君、って最早パワハラまがいだよね。で、正人は暫くだんまりだったんだけど」
「おう」
「リュックを開ける音がしたから、今しかない、と思ってね、質問があるふりして、俺は研究室に飛び込んだ」
「すごいな、お前」
正直言って私には、炎上中の研究室に飛び込んでまでことの成り行きを見届ける勇気はない。良い友人をもったものだ。
「それで、どうだったの」
「白だったよ。真っ白」
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