第7章 あなたのそばで眠りたいだけ

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第7章 あなたのそばで眠りたいだけ

「…こんにちはぁ、米村さん。あ、桃さんも。お久しぶりです」 ふぃん、と軽く風を切るような音がして自動ドアが開き、入ってきた因幡くんが機嫌のいいにこやかな顔を綻ばせて僕と柚野桃に挨拶した。僕は曖昧に笑みを浮かべてこんにちは、と軽く頭を下げて返す。…正直、『久しぶり』って言われるほどでもない。と思う、けど。 挨拶されたもう一人はというと、屈んで飽くことなく覗き込んでいた色鮮やかな水槽から視線を逸らして店の入り口の方を向く。こちらは途端に飾り気のない満面の笑み。 「あ、因幡くん。どしたの、今日は?」 いつの間にか結局敬語は吹っ飛んで完全なるため口だ。しかも『くん』付けって。 僕は途中だった作業に戻り、彼らの方に顔は向けずに視界の端でその様子を捉えながら考える。彼と柚野桃は十歳以上歳が違うはずだけど。どこかの時点で対等と認識されてしまったらしい。しかも呼ばれる方も特に違和感も感じてないみたいなんだから。 生まれながらの子分体質というか。あの千夏と上手くやっていけるのもある意味頷ける。張り合ったり背伸びするより、素直に従ったり甘えたり、せいぜい拗ねたりする程度なんだろうなぁ。可愛がられるのも無理ないかも。     
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