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放課後に図書室へ向かうようになってから三日目だ。昨日のかりを返すために俺は今日も図書室へ来た。が、やっぱり鎌倉は機嫌が悪そうだ。
『なんで毎日来るの?』
そうくると思った。
『120円返す』
『いらない。目の前にいると気が散るから視界に入らないでくれる?』
『……あっそ!!!』
「点まで書くな」と小声がした。相変わらずの塩対応だ。こうなったらこちらにも手がある。俺は鎌倉の隣に座ってやった。嫌悪に満ちた表情を間近で拝んでやる。言いたい事があるなら書き示せ。
ところが鎌倉は無反応。何を考えているのか、あのほとんどが白紙の文庫本を開けて一点を見つめている。刺激するとまた面倒になるから、俺は静かに本を読むことにした。
陽射しが気持ちいい。活字がいっそう眠気を誘う。まぶたが重い。
俺は寝てたのか。どれくらい寝てただろう。寝ぼけ眼の先に、楽しそうに何かを書く鎌倉がいる。いい顔するじゃないか。もしかしたらこれも夢か。夢なら覚めないでくれ。鎌倉の笑顔が心地良かった。しかしそれも束の間、俺は足を小突かれ目を覚ます。
『帰る』と、眼鏡の鎌倉がノートに書いた。もうそんな時間か。俺は帰り道で、機嫌が良さそうだった鎌倉に質問した。
「何書いてるんだ?」
「小説」
「楽しそうに書くんだな」
「悪い?」
悪くない。やっぱりあれは現実だった。鎌倉は、とても良い顔で書いていた。今日は不思議と会話が弾む。
「で、どんな話を書いてるんだ」
「恋をすると魔法が使えなくなる魔法少女の話」
質問の内容が良かったのだろうか、鎌倉はいきいきと構想を話してくれた。こうして話していると、教室での暗い印象が嘘のようだ。そして、最後に何気なく「小説が出来たら読ませてくれ」と、言った後の鎌倉の返しに、少し嬉しくなった。
「はいはい。読みたいなら、読ませてあげる」
体育会系で育ってきた俺には鎌倉の文化的創作活動が新鮮だった。その後も俺は、放課後に図書室へ行くのが日課となった。完成が楽しみだ。
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