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俺は落ちた本を拾い、持ち主を確認するが、文庫本に名前を書く奴がどこにいようか。俺の興味は、本の中身に変わり、パラパラとページをめくった。どのページも真っ白、なにも書かれていなかった。ようやく冒頭あたりに、小さな字で文が書かれていた。そして、数行読んだ時だった。 「これは……あ!」 目の前からいきなり本が消えた。消えた本は、俺の前にいる女子の手にあった。 どこかで会ったような、知ってるような女子だけど、心当たりの人物はこんな割とかわいい子ではない。 すると、その女子は大事に本を抱え、無言で奥の席へ行ってしまった。そう、お礼の一言も言わずに。 俺は文句を言うつもりで、無礼極まりないその女子を追った。ただ、気になることが一つ。俺の目に狂いがなければ、冒頭に書かれた名前の人物と俺から本を奪った人物が一致しない。 その女子は、鎌倉 里奈にしては少し垢抜けた感じの女子だった。眼鏡は無いし、髪をくくっている。 だが、たとえそれが鎌倉だろうが誰だろうが、俺には関係ない。不愉快を上塗りされ、苛立つ気持ちを解消する手段として、その女子に善意の見返りを求めた。本を拾ってやったのだから当然だ。 「ちょっといい?拾ってあげたんだ。礼の一言もないの?」 ちょっときつ目に面と向かって言った。この子、よく見るとやっぱり鎌倉に似てる。 ところが、その女子はまた無視。頭にきた俺はその女の肩を引っ張り、強引にこっちを向かせて言った。
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