その猫は

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さらさらした短めの黒髪に眼鏡を掛け、顔立ちのすっきり整った、色の白い男の人。 痩せ型で影も薄そうだけれど、なんとなく気になっていた。 「…あの…?」 「あっ、えっと」 とはいえ突然訪れた私は、言葉に詰まる。 まさかこの猫がついてこいと喋って来ました、とも言えまい。 「……本屋の人、ですよね?」 「は、はい……」 「よかったら、リンゴ、食べませんか?実家から送ってきたんですけど、食べきれなくて」 「あっ、いただきます」 「ちょっと待っててください」 ビニール袋に何個か入れたものを手渡された。 「いつもお世話になってるので」 「とんでもない!こちらこそ!…ありがとうございます」 「猫ちゃん可愛いですね」 「ミケっていいます」 「白いのにミケ?」 クスッと笑う。 彼も笑った。 初めて見た笑顔が可愛かった。 「僕は知。緒川知(おがわさとる)」 「あっ、神月沙耶です」 ぺこりとお辞儀する。 「…また、来てもいいですか?あっ、ミケに会いに」 「いつでもどうぞ。僕もお店に行きます。お話ししてみたいと思ってました」 穏やかに微笑んだ。 にゃあ、とミケが鳴いた。
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