その猫は

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裏道で車一台くらいしか通れない道を、猫について自転車を押して歩く。 人通りもあまりない。 隣の家の小さな門に移ると、飛び降り、玄関先でちょこんと座った。 「えっ?こっち?!」 お屋敷とは違い、普通の古民家だ。 「あっちやと思った?」 ふふん、と得意気に見上げると、灯りが点き、玄関のガラス戸が開いた。 「お帰り。またどこかに行ってたね?裏口に猫ドアがあるのにこの子は」 「あっ…」 半纏姿の猫を抱き上げたご主人様を見て、思わず声を上げる。 勤務先の本屋にいつも来るお客さんだ。 素敵な人だなと思っていたけれど、声を掛けるのもおかしいし、と躊躇っていた。
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