1 さんりんぼう (その1)

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1 さんりんぼう (その1)

学校には行かへんかった。行く気力、なかった。 出掛けの両親の夫婦喧嘩。 「アンタに甲斐性ないから深雪の学資保険まで解約せな、食べられへんねんで!」 忘れ物を取りに帰ったら聞こえた。 (学資保険・・・解約・・・) あれが“頼みの綱”やった。奨学金を申し込んでバイトをしたら大学はいける。でも初めに納める入学金とかの何十万は学資保険が頼りやった。 (大学、無理かな・・・いやや、そんなん嫌!必死でバイトして定期代も塾代も払うてきたのに) とりあえず三国駅まで来たけど、学校へは行かんと天王寺へ出て、ハンバーガー屋さんで時間潰して塾へ行った。 「早いやないか」 「うん・・・自習室、使おうと思って」 「解らんトコあったら呼びや」 タニヤン先生の声が背中で聞こえた。 天王寺駅から阪堺電車の線路沿いにちょっと歩いて右へ入って突き当たり。三階建てボロボロビルのこの塾は、65歳くらいの塾長、塾長の同級生で右腕にようさん(沢山)縫い傷のあるタニヤン先生と、40歳前後のマキちゃん先生・ブーちゃん先生夫婦の四人でやってる塾。宣伝なんかせぇへん(しない)口コミで、進学実績がスゴいわりに授業料は安い。 「模試の結果、もろて(貰って)きたで」 大倉くんが入ってきて、模試の結果を広げて見た。 「イケる!イケるな!深雪もイケるで!」 私も大倉くんも阪大は合格ライン。行きたい!やっぱり行きたい。大倉くんと一緒に通いたい! 「おお!一番さんが来たで」 「大倉、その呼び方、やめて」 うちの高校で常に一番の多香子も来た。東大合格間違いなしの上に美人で背も高い。 「深雪、学校休んだのに塾、きてたんや」 「うん・・・」 授業が始まっても頭に何も入らんかった。 (お金・お金・お金・お金・お金) ・・・頭痛までしてきた・・・ 帰り、モタモタしてると、 「行くで!私、帰ってすぐにバイト入らんとあかんから」 多香子に急かされながら支度。多香子も同じ団地で似たような貧困層家庭やから高校入ってすぐに二人でコンビニバイトをしてる。 「お金貯めるのも大事やけど無理すんなよ」 ドアの側にいたタニヤンが言うた。 「今無理せな、3月まで4ヶ月ないんやで!頭もやけど通帳も増やしとかな」 また頭の中で、お金、お金、の文字。 「そないに(そんなに)金、金言うて、危ないバイトに手ぇ、出すなよ。女の子はなあ、好きな男とナニする日まで白いパンツを汚したアカンのや」
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