6人が本棚に入れています
本棚に追加
それは16年前の初夏のことだった。
吾輩は小さな公園の植え込みの間で、新しい主に相応しい人間を物色…もとい、待っていた。
じっと待つこと数時間、これはと思う人間はなかなか見当たらない。
そろそろ諦めて場所を変えようと思った頃、植え込みの中を見つめる4つの目と目があった。
「子猫だ。」
「子猫だ。」
声が被った。
「お前、迷子?」
少女が首を傾げて尋ねた。
「捨て猫じゃね?」
隣の少年が言った。
「つまり、飼い主はいないってこと?」
「捨て猫ならな。」
「ふぅん。じゃあ、私が飼おうかな。」
少女が吾輩を茂みの中から抱き上げた。
「ちょっと待て!俺が先に見つけたんだ。俺が飼う!」
少年が少女の腕から吾輩を取り上げようとした。
「何言ってるの!先に見つけたの、私よっ!」
そう言って少女はきつく吾輩を抱きしめた。
ちょっと苦しい。
「おい、そいつ返せよ!俺が飼うんだから!!」
「いやっ!!」
少女は少年の手を払うように身を翻すと、そのまま駆け出した。
「あ、待てっ!!美琴!!」
少年も慌てて追いかける。
というか、然程広くもない公園の中を二人はぐるぐると駆け回る。
「返せ!俺の猫だっ!」
最初のコメントを投稿しよう!