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無事川沿いに着地すると、竹之丞は香与の身体をそっと腕から降ろし、「ご苦労だったな、弥左衛門」と香与のまだ見ぬ方角へと声をかけた。
――そこには、年齢は中年くらいの、小太りで人の良さそうな男が立っていた。
彼もまた、修験者の服装を着用している。
竹之丞が“七”として暮らしていた、河田屋の主人、河田屋泰兵衛――真名を城戸弥左衛門という。
彼もまた、竹之丞と共に八幡へ潜入している足利の間者であり、上司と部下の関係にあった。
「へぇ」
弥左衛門は微笑んで香与の方向へと目を遣ると、その恰幅の良い身体に抱いた犬の姿を見せた。
――香与の飼い犬である。
元気に黒々とした瞳を輝かせ、舌を出して呼吸している。
香与の不安に震えていた瞳が、喜びに光を帯びた。
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