【三】

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木々を掻い潜って川縁の緩やかな傾斜を下りながら、香与は二人に首を傾げて訊いた。 「それで、二人はこれからどこへ行くの?」 「…ああ。そうだな」 竹之丞は、香与の邪気の無い目線に一瞬たじろいだ後、弥左衛門の方を一瞬見た。 弥左衛門は無言で首を縦に振り、同意のジェスチャーを見せた。 行き先はもう決まっていた。 「…尾張へ向かう予定だ。」 「尾張へ?」 香与は竹之丞の言葉に不思議そうに聞き返した。 香与は、商家育ちでしっかりしている気性ではあるが、あくまで普通の娘であるから、竹之丞もそれを承知している。 その『何も知らない』が故の柔らかな文の内容に、竹之丞の心は何度解されたか、わからない。 だが、巻き込む訳にもいかないので、続けて竹之丞は声を濁した。 「………。まあ、その。色々と回る」 「色々?」 「~~……ああ、…色々。先に辰之助達の所へ挨拶に伺ってから向かうつもりだ」 香与の悪気無い追い込みに、竹之丞は辿々しく返答した。 最後の一言は、取って付けたかの様な提案で、隣で聞いていた弥左衛門は思わず頭を抱えてしまった。 ――が、香与には効果抜群であった。 「辰之助の所に? ――私も行く!!」 香与は前のめり気味に竹之丞の左手を取り、強い口調で宣言した。 「…………」 竹之丞は、昔辰之助の前でした時の様に、右手で腰の扇子袋に入れていた扇子を取り出した。 扇子を広げて口許を隠す。 心を落ち着かせるサインである。 竹之丞からすれば、香与の反応は計算済みであった。 彼女の好きそうな話題で話を逸らそうとしたのだ。 ――本音を言えば、竹之丞は辰之助のもとへ会いに行くということに関しては、余り乗り気がしなかった。 それは、話を聞いていた弥左衛門も同様で、言い出した竹之丞の背後で大袈裟に溜め息を吐いた。 落ち葉がはらりと地面に落ち、竹之丞は気まずそうに香与から目線を逸らした。 「―――ッ、勝手についてくればいいさ」 竹之丞はぐぬぬとしながら香与に素っ気なく言い捨てた。 一方の香与は、飼い犬を抱いて素直に喜んでいる。
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