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「――……ッ……」
峰丸は、降ってきた破片で出血した片腕を抑えながら、全壊した己の家を見つめ続けた。
ただただ静寂の中で、腕から流れ落ちる赤がどくどくと命の脈を刻んでいる。
不思議と涙は流れなかった。
何故なのか?それは、彼自身にも分からなかった。
あれほど、身体を張ってまで守ろうとしたものだったのに。
がしゃ、と瓦礫を踏みつけて、崩れた家の中へと足を踏み入れた。
自然、倒壊した柱や家具の燃えかすで辺りは雑然とし、峰丸の足は途中で止まる事となった。
そこで、峰丸は人の気配を感じて立ち止まった。
まるで茨道の様に屋根瓦が落ちて重なり、踏み込めなくなっている箇所だ。
――聞き慣れたうめき声が聞こえる。
「……う……う……うぅ……」
――峰丸の父・松波庄五郎の声だった。
最後の力を振り絞ったのか、瓦礫を掻き分けて、年老いた腕が峰丸のいる方向へと伸ばされた。
「うわあああ…助けてくれ!!助けてくれ――!!」
庄五郎は、まるで雲の糸に手を伸ばすかの様な形相で、瓦礫から抜け出そうともがいていた。
峰丸はたじろいだ。
止血が終わらず、腕から血がぽたぽたと地上へと滴り落ちていた。
様々な事情はあれど、庄五郎と峰丸が親子であることに変わりはなかった。
情がない、といったら嘘になる。
「なあ、いるんだろ!峰丸!!峰丸ゥゥ!!おまッ、お前は――…ゲホッ、俺の子供だろう?!なぁ…ッ…」
庄五郎からの切実な嘆願。――峰丸は、何処かでこういう言葉をよく聞いていた。
――と、次の瞬間、峰丸は立ち止まった。
足元にあったのは、松波庄五郎名義の借金の証文の束であった。
先端が火災で焼け落ちているが、それは確かに存在していた。
隣に落ちていたのは、庄五郎の描いた軍略図だ。
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