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【三】
続けて、辰之助の幼馴染みであり婚約者――香与の様子を語ろう。
小山家の実家で被災した香与は、当時家にいた他の家族と共に、避難先へと避難しようとしたが、道先で飼い犬とはぐれてしまった為に、一人抜け出して飼い犬を追いかけた。
――が、その時、運悪く、震災後の混乱に乗じた盗賊と遭遇してしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
香与は草原を走り続けた。
不逞の盗賊達から、逃げる為である。
震災で焼け出され、愛用していた根結い髪を包む布は、煤でボロボロになってしまっていた。
「――あっ!」
その時、石ころに躓き、香与は転んでしまった。
チクリ、と痛みを感じて足元を確かめると、膝を擦りむいて出血していた。
「――…ッ…」
追いかけてくる盗賊達の声が聞こえる。
香与は、唇を噛み締めてうなだれた表情を見せた。
迫りくる運命に覚悟するかの様な凛とした目で盗賊達を睨み付ける。
だが、逃げ続ける事で体力を消耗し、その表情はやつれ果ててしまっていた。
――と、その時である。
白銀の閃く音が空に舞い響き、次の瞬間、香与の目の前で次々と盗賊達が倒れていったのである。
香与は、驚きの余り一瞬目を擦った。
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