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【一】
1520年春、近畿地方を大地震が襲った。
フィリピン海プレートから出来た歪みは紀伊半島から近畿全体へと未曾有の大災害を引き起こし、松永兄弟の暮らす八幡も震災で焼け落ちたのである。
「甚助…無事で良かった!」
「兄上っ…――うわあぁんっ!」
災害を生き延びた松永辰之助は、稽古先の寺院の本堂に身を潜めていた弟の松永甚助と無事合流した。
ところが――。
「門真屋の寅さんは……、残念だが………」
八幡の住民は、声を潜めてそう答えた。
松永兄弟の両親が経営する餅屋・門真屋は全壊。
焼け跡から、父・寅次郎の遺体が見つかり、母・あさは消息不明となってしまったのである。
永正の大地震の後、松永兄弟は甚助が避難した寺院と繋がりのあった高僧・安井宗運が所属する山城国東寺派の古刹・大原寺に引き取られた。
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