彼について

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彼は、彗星の如く私の目の前に現れた。 身長が高く細身体型、顔は均整が取れており容姿端麗。 地球上で最もカッコイイといってもいいだろう。 それなのに、彼はなんと家政学部なのだ! 料理も裁縫もお手の物。 将来は理想的な旦那さんになるんだろうなあと妄想が止まらない。 男子といえば木製バットを振り回しながら怒声をあげ集団示威行為をする輩という勝手なイメージがあったが、彼を見ると、まるで天から寄越された王子さまのように思えた。 この前は、インカレのサーフィン大会で優勝、海の王子の称号をもらったのだ!瞬く間に彼の評判は各大学に飛び火し、他大学の女子達も遠方からわざわざ彼を見に来る始末だった。 しかし、私は見てしまった。彼が冥府の王に変身を遂げるのを! 彼は一瞬にして、この太陽系全てを滅ぼすと、宇宙全体を黒で飲み込み、劫ほどの時間をかけて鉄の塊となってしまった。 目覚めると、銀が溶けたような汗で身体中がびっしょり濡れていた。 こんな変な夢を見たのは初めてかもしれない。 服を着替え、顔を洗い、朝ごはんを食べる余裕はなかった。 私は奇妙な悪夢を振り払うように玄関を飛び出し急いで大学へ向かった。 私はありとあらゆる恒星の公転周期を無視できた。ウサイン・ボルトの100m走や60Hz電源の周期よりも早く、最速トランジスタのスイッチングや水分子の振動よりも早く、あらゆる時間を跳躍した。 そのせいで、いよいよ日本経済ではインフレーションが発生し、生物学会ではその速さたるや、プランクトンも驚くほどだと評された。 そして、無事大学に着くと、作曲趣味の英語科の先生、ジョン・K教授が私の体験をもとに曲を作ってくれた。 早速その楽譜を見ると、音符が一つも踊っていなかった。 ただ、ただ、白い楽譜がそこにはあり、私はその白さに飲み込まれてしまった。
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