第2章 呪い

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 今日も三谷(みたに)隆弘(たかひろ)は原稿用紙の前で頭を抱えていた。  話しは出来てる。殺人のトリックも出来てる。   だが何が足りない。 (そうだ! リアリティーが足りないんだ!)  人を殺す動機。葛藤。そんな描写に力が足りないと三谷は考えていた。 「ただいま~」  そこへ男の妻が帰って来た。 (そうだ……俺自身が体験すれば良いんだ)  男は万年筆を置き、代わりにペーパーナイフを持って立ち上がる。  机の上に置かれた万年筆は年代物。  先日、気晴らしに出掛けた文具屋で見掛けた中古品だ。  惹かれるものを感じ、購入した黒い万年筆には掠れた金文字で『Identity』と書かれていた。 『I』と『i』は完全に消え、『n』は『a』に、『ty』は『h』の様に見える。 『 deat h』
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