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今日も三谷隆弘は原稿用紙の前で頭を抱えていた。
話しは出来てる。殺人のトリックも出来てる。
だが何が足りない。
(そうだ! リアリティーが足りないんだ!)
人を殺す動機。葛藤。そんな描写に力が足りないと三谷は考えていた。
「ただいま~」
そこへ男の妻が帰って来た。
(そうだ……俺自身が体験すれば良いんだ)
男は万年筆を置き、代わりにペーパーナイフを持って立ち上がる。
机の上に置かれた万年筆は年代物。
先日、気晴らしに出掛けた文具屋で見掛けた中古品だ。
惹かれるものを感じ、購入した黒い万年筆には掠れた金文字で『Identity』と書かれていた。
『I』と『i』は完全に消え、『n』は『a』に、『ty』は『h』の様に見える。
『 deat h』
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