日進自動車

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日進自動車

高橋浩二は51歳。 日本を代表する自動車会社日清自動車の生産工場を統括する副社長だ。 その日は、北九州にある九州工場の視察の為、日帰りで出張を行った。 全ての予定を計画通り消化して、九州工場を出発したのは17時過ぎだった。 社用車で技術アシスタントの松本部長と一緒に北九州空港に向かう。 「東川社長が一日予定を繰上げて欧州から帰国されたそうです」 松本が手元のタブレットを見ながら言った。 「そうか。私が参集した緊急取締役会の為、帰国を早めたのだな・・ 松本君、明日は厳しい戦いになりそうだな・・」 松本が大きく頷いた。 「だけど、正義の戦いです。日清自動車の将来の為にも避けては通れない・・でも高橋さんにとっても結果は茨の道となるかもしれませんが・・」 「茨の道でも克服して進んで行くしか無い。企業が自浄努力が出来なければ存続出来る訳無いのだから・・」 高橋は自分に言い聞かせる様にそう言って天を仰いだ。 空港に到着すると、既に日清自動車の社有機ガルフストリームG650が待っていた。高橋は機内に松本と一緒に乗り込んだ。 客室乗務員 高梨裕美が搭乗口で満面の笑顔で迎えてくれた。 「高橋副社長、松本さん、帰りも羽田まで宜しくお願いします」 高橋も微笑みながら応えた。 「高梨君、宜しくお願いするよ。高田君、橋本君も、ご苦労様。羽田迄宜しく」 高橋は高梨に挨拶すると左を振り向き、コックピット内で離陸準備をしている二人のパイロットに声を掛けた。 二人が振り返り挨拶を返してくれた。 そのまま高橋と松本は客室へ移動し、8席設置されている大型のシートに腰を降ろした。 「それでは、離陸致します。シートベルトの確認をお願いします」 機長の高田よりアナウンスが入った。 機体は直ぐにプッシュバックを開始した。 機体はゆっくりエプロンを離れ滑走路36エンドに向けて進んでいく。 そして、滑走路36に正対すると、そのまま素晴らしい加速で、あっという間に北九州空港を離陸した。 周防灘に出るとG650は上昇しながら右に旋回していく。 そして、高度4万1千フィートで水平飛行に入った。
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