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「ごめん、ずるいことした。僕が魔女なんだ。君を引き込むために嘘をついた。君の体を操作した」
追い求めていた存在は――待ち焦がれていた存在は直ぐ目の前にあった。何ヶ月も、横に居た。
「久しぶりに退屈じゃなかったよ。いや、ここは素直に楽しかったと言おうか。君の時間は奪ったけれど、許してくれたまえよ」
ナイフが脳裏に過ぎる。握り締めて、その体に突き立てれば、まだ間に合うだろうか。
なんて、今更出来ようか。体が動かなくても、動いても結果は変わらなかった。
テオを殺すなんて、僕には出来ない――。
咽ぶ。喀血する。恐れていた死が急速に近付いてくる。
目の前に、テオの手が翳された。
「僕も嘗ては君と同じだった。だからこそ、生き地獄を味わうのは僕だけで十分さ。君は安らかに眠れ」
途端に、感覚が消え眠くなってくる。恐らく、魔法の所為だ。
「さよなら、友よ」
テオは、ずっと死に焦がれていた。
けれど多分、優しさゆえに選ばなかったのだろう。同じ思いをさせない為に、諦めを誘ったのだ。
思えば、テオは最初から優しかった。
「…………まだ、諦めてない……」
「……君、何を言い出すんだ?」
「生まれ変わったら、また探す……! その時こそ奪ってやる! だから待ってろ! 絶対に見つけてやるから……!」
不死の魔女を、生き地獄から解き放つ為。それが、納得出来る理由だ。
その為に、僕はまた君を探そう。絶対に、覚えていて探し出そう。
「待ってろなんて酷な事言うね。こっちは生きたくないって言ってんのに」
目が合う。テオの瞳が三日月を模す。
「うん。まぁ、でも納得した。そこまで言うなら、本当に僕に会いに来るのなら、その時はあげてもいいよ」
翳された手が、小指だけ残して曲げられた。
「その時を、楽しみに待ってる」
唇の形だけで、返答を唱える。テオの口からも、同じ声が聞こえた気がした。
絡まない小指の上、二つは重なる――。
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