二十五と千

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 村に二つある出口の片方――鬱蒼とした森の前に立つ。以前は門があったはずだが、今は面影すら無かった。ただ、木屑が地面に散らばっているだけだ。  まるで分岐点とも呼べよう場所に立ち、改めて深呼吸をした。  この村には、代々伝わる伝承が幾つかある。  その一つが、不老不死の魔女についてだった。  森に住む魔女の心臓を食べると、その者は千年間生きられる――そんな言い伝えだ。  短命な僕らにとって、それは夢のような話だった。魔女の実在を信じている分、実現可能な夢でもある。  ただ、魔女探しを阻止するような噂も幾つかあり、怖さゆえ人々は森に入ろうとしなかった。  けれど、僕がなぜ入ることを決めたのか。  それは、固い決意があったからだ。  僕はもう直ぐ二十五になる。それだけならまだしも、既に病が兆候を見せ始めていた。  その上、僕には子どもがいなかった。不幸なことに巡り合わせがなく、結婚すら出来なかったのだ。  生まれた意味や、遺伝子を残せずに死ぬのは正直怖い。  いや、違うかもしれない。僕はただ〝死〟が怖い。だから、生きる道が欲しいと思った。  魔女の心臓を手に入れ、奪い、食べる。  僕に残された光は、それだけだった。
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