二十五と千

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 この国にはもう一つ、魔女伝説と同じくらい頻繁に語られる伝承がある。  それは、生まれ変わりについての言い伝えだった。  体が朽ちようと、魂は新たな器に宿り、この世のどこかに生まれ落ちる――そんな伝承だ。  そちらについても実証はないが、この村の人は皆信じている。  無論、僕も信じていたが、来世を待つ気にはなれなかった。    緊張感の中、一歩踏み出す。すると、突然空気が冷たくなった。  寒気がする。気配に怯えてしまう。数多の噂を思い出し、足が竦んだ。 “森に入ると、戻れなくなる。魔女は恐ろしい性格の持ち主で、出会った人間を殺してしまう”  幼い頃、そんな物語を何度も聞かされた。その恐怖は体に染み付き、今でも残ってはいる。だが、魔女狩りはその上で決めたことだ。  何を選んでも死ぬだけならば、希望のある方を選ぶ。そう己に言い聞かせ、進んできた。  仮に、戦う準備もしてきた。荷物の中にナイフも備えてあるし、訓練もした。魔法と言うものを使われれば一撃かもしれないが、魔女も甚振るなんて酷な事はしないだろう。  だから、大丈夫。見える死より怖いものはない。  深まる闇に飛び込みながら、僕は未来をシュミレーションした。
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