二十五と千

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 森に昼夜はないのか、いつまで経っても暗さは変わらなかった。上を見上げても、空ではなく木のシルエットが映るだけだ。  所持していた時計を見る。すると、針は十二時に差し掛かろうとしていた。あと数秒で日が変わる。  だが、驚きはなかった。激しい疲労感と眠気が、妥当なものだとさえ思わせた。  正直、歩きすぎてフラフラだ。  時間は惜しいが、そろそろ一眠りしよう。そう考え、適当な場所で力を抜く。  だが、その瞬間、急に肺が痛み出した。焦って無理をしすぎたのかもしれない。  呼吸が不規則になって、眩暈がする。力が抜け、蹲ってしまった。  やはり、進行は着々と進んでいる。  時間がない。僕は、まだ死にたくない。探さなきゃ。魔女を探して、殺さなきゃ。  そんな思いとは裏腹に、疲れた体は休息を求めるように意識を手放してゆく。  ――その時だった。  暗いはずの景色に、黄色が浮かび上がった。まるで月のようなそれが、人の目だと理解するのに時間は掛からなかった。  息を飲む。姿はあるのに気配がなかった。  繰り返し語られた物語が蘇る。同時に、恐怖も湧きあがる。  魔女だ。魔女が来た。殺される。    けれど、一歩も動けなかった。描いた未来は、頭の中で崩れ去っていた。
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