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本の好みは人それぞれ
この騎士団の団長、ティアーネ・エルメルトは読書家だ。
依頼を受けない休みの日は、鍛錬以外の時間を読書に充てている女だ。
加えて読書量が非常に多い。
魔術師である俺は普段から魔術書に囲まれ大量に読むことになるが、それを上回る。
休みの度に大図書館に行くか、書店や行商で大量に買い込んできて読んでいる。
本の種類も多岐わたり、学術書、兵法書、薬学書等々……。まるで統一性もなく、何が好みかすらわからなかった。
しかし、魔術師の性分かわからないまま放っておくことが出来ず、今日はリビングで大量の本を積み上げて読書に耽る団長に聞いてみた。
「団長はいつも小難しい本を節操無く読んでいるが、一体どんな本が一番好きなんだ?」
「え? 恋愛小説だけど?」
あっけらかんと。さも「あたりまえでしょ?」と言いたげな口ぶり。
「でも悲恋ものはあまり好きじゃないわ。幸福な結末が一番ね」
国外の書物でも貪欲に、貪るように読む団長。しかし、一番好きなのは普遍的な恋物語だという。
「……囚われのお姫様を騎士が助けに来る、そんなありふれたお話だったけど、子どもの頃毎晩読んでいた本があったわ」
どこか遠い目をする団長。
「その一冊があったから、私は本を読むのが好きになったのかも。自分の目より、もっともっと広い世界が見れるから」
団長の読書中毒の起源はそこにあったのか。それに意外とロマンチックな物語がすきなんだな。
今度エリックのヤツに教えてやろう。あいつ、団長に惚れていることだし。
「シリルも一冊読む? 魔術書ばかりじゃ見識が広がらないわよ」
そういって一冊の本を差し出された。
表紙には『給仕服の歴史』と書かれている。
……はい?
「どう面白そうでしょ?」
そういって無邪気に笑う。
こんな本も読んでいるのか……。
ほんっとに、よく分からない団長だ。
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