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集団の姿が見えなくなったところで、耐え切れないとばかりに葵が吹き出した。
「ぶはっ、すごいね。嵐の様ってああいうことだよなー」
「葵……」
「あ、あの、すみません。騒々しくて」
「いや、いいよいいよー。圭介君のこと心配してくれてて、良い友達じゃん」
冬吾を挟んで圭介と反対側にいた葵がひょっこりと顔を出す。
圭介より数センチ程低い位置から見上げた瞳が、圭介を映してにこりと微笑んだ。
「初めまして。冬吾の同僚で従弟の葵って言います」
「従弟…あ、沢浪圭介です。冬吾さんにはいつもお世話になっています」
「冬吾に泣かされたら僕に言ってね。こいつぶん殴ってあげるから」
「、お前な」
文句を言いかけた冬吾を無視して、葵は胸元から取り出した名刺を圭介に手渡した。
勢いで受け取った圭介が紙に視線を落として目を見開くのをおかしそうに見やってから、冬吾の肩を軽く叩く。
「冬吾が本気になった相手だし今実物見て気に入ったわ、良い子じゃん。泣かすなよー冬吾。んじゃ僕帰るな、馬に蹴られるの御免なんで。圭介君」
「っはい」
「今度一緒に遊ぼうね。じゃ、お疲れー」
「あ、名刺、ありがとうございます。お休みなさい」
「…また来週」
軽く手を上げ、葵が大通りへと歩き出す。
後姿が人混みに消えていくのをぼんやりと見送っていた冬吾は、思わずと言った深い溜息を零した。
「冬吾さん?」
「……なんか、俺の味方がいない気がする」
うっかり誤解の1つでも生まれようものなら、吊るし上げは確実だろう。
友人に慰められている圭介の前で、葵に締め上げられている自分の姿が簡単に想像できてしまい、げんなりと呟いた。
半分拗ねたような響きを持った言葉に、圭介がクスクスと笑う。
「じゃあ、俺が冬吾さんの味方になります」
「えっ」
「皆が俺の味方なんだったら、俺は冬吾さんの味方になりますよ。それなら丁度良いでしょ?」
上目遣いで微笑む圭介も、酒はしっかりと入っているらしい。
薄暗い中でも分かる、ほんのり色づいた目元はこの場でキスしたくなる位に可愛い。
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