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実際、体調を崩したときに圭介が来てくれたのは予想外だった。
弟が1人いると言っていたし、孝也と付き合っていたときには圭介が世話をする方だったから、年上から「与えられる」という状況に慣れていなかったのもあるだろう。
それでも、何かをするときには大抵冬吾から誘いをかけていたので、受身が多かった圭介にあのような行動力があるとは思っていなかったのだ。
見事裏切ってくれたギャップに惚れ直したと言っても過言ではない。
半ば呆れながら見下ろしてくる圭介の怒った顔をふと思い出して、冬吾は笑みを零した。
「…思い出し笑いとか気持ち悪いんですけど」
「恋人の可愛い顔を思い出したらつい、な」
「うっわーもー、お前本当に九条冬吾?まさか略奪愛を聞くことになるとは思わなかったわホント」
「別に、本気で好きになったからどんな手段使っても欲しいって思っただけ」
孝也と別れてなくてもいい。
圭介にとって1番の存在になれなくても。
彼が欲しい。
そんな風に思ったのは、確かにこれまでで初めてだった。
「浮気相手で良い」なんて言ったことに冬吾自身でも驚いていたくらいだ。
「歴代の恋人達が聞いたら泣くよ、それ」
「じゃあついでに、今の恋人が可愛くて仕方ないですって言葉も追加するよ」
「、鳥肌立った」
身震いの仕草をした葵にデコピンをお見舞いする。
額を押さえて騒ぐ葵を尻目に、すっかり冷めた軟骨を口に入れた。
程よく飲んで食べて、店を出る頃には腕時計も良い時間を差していた。
葵の近況も報告させて、休日遊びに行こうと予定を立てたところでお開きになり、レジで会計を済ませる。
スタッフの威勢の良い声を背に店を出たところで、後ろから来ていたらしい集団の声が冬吾と葵の耳に飛び込んできた。
「よーっし2次会!!2次会行くぞー!!」
「うっせー、ボリューム下げろお前」
「敬太飲みすぎ。つか俺帰るよ」
「あー?付き合い悪いぞけーすけぇ」
「、酒臭っ…最初からこれで帰るって言ってんだろ」
良く知る声と名前に冬吾が振り返った先、覚束ない足取りで歩く青年を支えている2人の内の1人も顔を上げて目を見開いた。
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